定義
毛細血管通過時間とは、赤血球が肺毛細血管のガス交換領域を通過する時間である。肺胞–毛細血管膜を介してガスが分圧平衡へ達するのに必要な時間との比較により、取り込み量が血流で決まる血流制限性か、膜拡散能力で制限される拡散制限性かが決まる。
イメージ
動く歩道に乗った赤血球が、肺胞という補給所の前を通ると考える。補給が速ければ途中ですぐ満タンになり、その後は新しい赤血球が何個来るかで全体量が決まる。補給口が狭い、膜が厚い、歩道が速すぎると、出口までに満タンになれない。
仕組み
安静時の肺毛細血管通過時間はおおむね0.7〜0.8秒で、正常肺のO₂は約0.25秒以内に肺胞分圧へ近づくため余裕がある。運動で心拍出量が増えると通過時間は短くなるが、毛細血管の開通・拡張によって交換面積も増えるため、通常は平衡が保たれる。肺線維症や肺水腫は拡散距離を増やし、肺気腫は交換面積を減らすため、酸素平衡化が遅れる。高地では肺胞酸素分圧が低く、拡散の駆動圧が小さくなる。一酸化炭素はヘモグロビンへ強く結合して血漿分圧が上がりにくいため拡散制限性、亜酸化窒素は早期に平衡化するため血流制限性である。酸素は正常では主に血流制限性だが、重い膜障害、運動、高地が重なると拡散制限が顕在化する。
例
間質性肺線維症患者では、安静時PaO₂が正常でも、運動によって毛細血管通過時間が短くなるとA–a酸素較差が広がり、動脈血酸素飽和度が低下することがある。高地では駆動圧が小さいため、同じ膜障害でも拡散予備能が減る。