定義
血管内皮グリコカリックスは、内皮細胞の血管内腔側を覆うヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、シンデカン、グリピカン、糖タンパク質、結合血漿タンパク質からなる動的な層である。物理的・電気的障壁、ずり応力センサー、抗凝固・抗接着表面として働き、グリコカリックス直下のタンパク質濃度を介して水分交換も調節する。
イメージ
内皮を裸のタイルではなく、血管内腔へ伸びる柔らかなブラシで覆われた面と考える。ブラシは大分子や血球が細胞膜へ直接ぶつかるのを防ぎ、血流でしなることで一酸化窒素産生を促し、凝固因子や白血球が不用意に接着するのを抑える。
仕組み
グリコカリックスの陰性荷電したグリコサミノグリカンは水と陽イオンを保持し、アルブミンやアンチトロンビンなどを結合する。ずり応力はシンデカン、グリピカン、PECAM–VEカドヘリン–VEGFR複合体、細胞骨格へ伝わり、eNOS活性化と一酸化窒素産生を促す。ヘパラン硫酸へ結合したアンチトロンビン、トロンボモジュリン、組織因子経路阻害因子は抗凝固性を支える。毛細血管では、主要な濾過障壁が内皮間隙だけでなくグリコカリックス直下に形成され、直下腔の膠質浸透圧が濾過を左右する。炎症、高血糖、虚血再灌流、酸化ストレス、プロテアーゼなどでグリコカリックスが脱落すると、透過性、細胞接着、凝固が増し、間質浮腫と微小循環障害へつながる。
例
敗血症や大きな虚血再灌流では、シンデカン1などのグリコカリックス成分が血中へ遊離し、毛細血管漏出と白血球・血小板接着が増える。正常時には、血流増加によるグリコカリックスの変形が一酸化窒素依存性血管拡張を支え、局所血流を需要へ合わせる。