定義
腸内細菌叢は、消化管に存在する微生物集団と、その遺伝子・代謝機能の総体である。宿主の消化酵素では分解されにくい食物繊維などを発酵し、主に酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸を産生する。短鎖脂肪酸は大腸上皮細胞のエネルギー源となるほか、腸管内pH、上皮障壁、免疫細胞、腸管ホルモン、肝臓・脂肪組織の代謝へ影響する。
イメージ
大腸には、宿主がそのまま利用できない食物繊維を小さな代謝物へ変え、腸上皮と全身へ返す発酵槽があると考える。重要なのは特定の菌名だけでなく、微生物集団がどのような代謝物を作るかである。
仕組み
腸内細菌は複雑な炭水化物を分解・発酵し、菌種構成と基質に応じて酢酸、プロピオン酸、酪酸を異なる比率で産生する。酪酸は大腸上皮細胞でβ酸化され、主要なエネルギー源となる。その酸素消費は腸管腔側の低酸素環境維持にも寄与する。短鎖脂肪酸はFFAR2、FFAR3、GPR109Aなどを介して腸管内分泌細胞、免疫細胞、脂肪細胞へ作用し、GLP-1・ペプチドYY分泌、制御性T細胞分化、サイトカイン産生、脂肪分解を調節する。酪酸にはヒストン脱アセチル化酵素阻害作用もある。腸内細菌は胆汁酸、トリプトファン、薬物も代謝し、粘液層、分泌型IgA、抗菌ペプチドと協力して病原体定着を防ぐ。
例
食物繊維摂取量が増えると発酵基質が増え、短鎖脂肪酸産生と便性状が変化する。抗菌薬や急な食事変化は微生物集団の構成と代謝産物を変え、病原体に対する定着抵抗性を低下させることがある。同じ菌種構成でも、食事と宿主環境が違えば代謝産物は異なる。