定義
恒常性シナプス可塑性は、数時間から数日にわたる活動量の偏りを検知し、ニューロンの平均発火率を適切な範囲へ戻す調節である。シナプススケーリングはその代表機構で、多数の興奮性シナプスの強さを、おおむね相対的な順位を保ったまま一括して増減させる。入力特異的な長期増強・長期抑圧による正のフィードバックが回路を過剰興奮または沈黙へ導くのを防ぐ。
イメージ
学習によって一部のシナプスが強くなり続けると、回路全体が発火し続ける方向へ暴走しかねない。そこでニューロンは、学習した入力間の比率をなるべく保ちながら、全体の音量つまみを上げ下げして活動を扱える範囲へ戻す。
仕組み
長時間にわたり活動電位が抑えられると、細胞内Ca²⁺依存性転写が低下し、レチノイン酸、Arc/Arg3.1、BDNF、グリア由来TNFなど細胞種依存の信号を介して、シナプス後膜のAMPA受容体が増えることがある。逆に過活動ではAMPA受容体の除去、抑制性シナプスの増強、軸索初節の位置変化、各種イオンチャネル発現の調節によって利得が下がる。典型的なシナプススケーリングでは、微小興奮性シナプス後電流の振幅分布がおおむね一定倍率で変化するが、樹状突起の局所的調節やシナプス前終末の変化も存在する。活動量は細胞体Ca²⁺、核内転写、代謝状態、グリア信号などを通じて監視される。ヘッブ型可塑性が入力ごとの相関を保存するのに対し、恒常性可塑性は回路全体または局所領域の活動範囲を安定化する。
例
培養ニューロンにテトロドトキシンを長時間投与して活動電位を止めると、数日以内に細胞表面のAMPA受容体が増え、微小興奮性シナプス後電流の振幅が大きくなる。反対に、GABA作用を遮断して回路を過活動にすると、興奮性シナプス強度が全体として低下する。