定義
膜脂質非対称性とは、脂質二重層の内層と外層でリン脂質の種類と割合が異なる状態である。一般にホスファチジルセリンやホスファチジルエタノールアミンは細胞質側に、ホスファチジルコリンやスフィンゴミエリンは細胞外側に多い。この分布は、ATPを使って脂質を一方向へ移すフリッパーゼやフロッパーゼと、脂質を双方向へ移動させるスクランブラーゼによって調節される。
イメージ
脂質二重層を、表と裏で部品の並びが異なる二枚重ねの作業台と考えると理解しやすい。平常時は専用の運搬役が脂質を決まった側へ戻し続けるが、血小板の活性化や細胞死では配置が一時的に崩れ、内側に隠れていた脂質が細胞表面へ現れる。
仕組み
小胞体で合成されたリン脂質は当初比較的対称に分布するが、ゴルジ装置や形質膜ではP4-ATPase型フリッパーゼがホスファチジルセリンなどを外層から内層へ移し、ABCトランスポーター型フロッパーゼが一部の脂質を内層から外層へ運ぶ。これらはATPを消費して濃度勾配に逆らうため、安定した非対称性を維持できる。細胞内Ca²⁺の上昇やカスパーゼの活性化によってスクランブラーゼが作動すると、脂質が両方向へ急速に移動して非対称性が失われる。血小板表面へ露出したホスファチジルセリンは陰性荷電面を形成し、凝固因子複合体の組立てを促す。アポトーシス細胞では同じ変化が、貪食細胞に除去を促す目印となる。
例
血管損傷部位で活性化された血小板では、細胞内Ca²⁺が上昇し、TMEM16Fなどのスクランブラーゼを介してホスファチジルセリンが外層へ移る。その表面にテナーゼ複合体やプロトロンビナーゼ複合体が形成され、凝固反応が効率よく進む。一方、アポトーシス細胞の表面に現れたホスファチジルセリンは、強い炎症を起こさずに貪食されるための目印になる。