定義
分子相同性または分子擬態は、病原体由来の抗原決定基と宿主の自己抗原決定基が、アミノ酸配列、立体構造、電荷などの点で十分に似ており、同じT細胞受容体や抗体が両者を認識する現象である。感染時の炎症と共刺激が加わると、低親和性の自己反応性リンパ球が活性化され、自己組織障害へ進むことがある。
イメージ
敵の目印が自分の組織の目印に似ていると、感染に対して作られた免疫反応が味方も誤認することがある。ただし、構造が似ているだけでは発症せず、強い炎症、遺伝的素因、免疫寛容の状態などが重なって病態となる。
仕組み
T細胞による分子擬態では、微生物由来ペプチドが特定のHLA分子に提示され、自己抗原にも反応できるT細胞クローンを活性化する。抗体による場合は、微生物抗原に対する抗体が細胞表面分子や細胞外基質上の共通立体構造へ結合する。感染は自然免疫受容体の刺激、サイトカイン産生、組織障害を通じて共刺激と自己抗原提示を増やす。活性化リンパ球や抗体は自己組織へ到達し、補体活性化、Fc受容体を介する傷害、細胞傷害性反応、炎症性サイトカインを引き起こす。リウマチ熱ではA群レンサ球菌抗原に対する反応と心組織への交差反応が代表例である。Guillain–Barré症候群の一部では、Campylobacter jejuniのリポオリゴ糖と末梢神経ガングリオシドの類似が関与する。発症にはHLA型、T細胞受容体構成、感染時期、制御性免疫機構も影響する。
例
Campylobacter jejuni感染後に作られた抗ガングリオシド抗体が末梢神経成分へ結合し、補体を介して神経障害を起こすことがある。一方、同じ感染を経験した人の大多数は発症しないため、分子擬態だけでなく宿主側の素因と免疫環境が必要であることが分かる。