定義
基質サイクルとは、代謝物AからBへの反応と、BからAへの反応を別々の不可逆酵素が担い、両方向が一定程度同時に進む仕組みである。正味の産物が少ないのにATPなどを消費するため無益回路とも呼ばれるが、代謝応答の感度を高め、方向転換を速くし、熱を産生する生理的役割がある。
イメージ
逆向きのエスカレーターが同時に動いている状態を想像するとよい。一見するとエネルギーの無駄だが、片方の速度を少し変えるだけで、人の正味の移動方向を素早く大きく変えられる。代謝では、この待機運転が細かな調節と熱発生に利用される。
仕組み
代表例は、フルクトース6リン酸とフルクトース1,6ビスリン酸の間である。PFK-1は解糖方向、フルクトース1,6ビスホスファターゼは糖新生方向を担う。両酵素が同時に最大活性となることは避けられるが、低い程度の逆向き反応は存在する。正方向の流量と逆方向の流量がともに大きく、その差である正味流量が小さいとき、調節因子による片側のわずかな変化が正味流量へ大きく反映される。ATP加水分解で失われたエネルギーは熱となる。ホルモン、アロステリック調節、リン酸化、細胞内区画化が反対方向の酵素を相互に調節し、過剰なエネルギー消費を防ぐ。
例
摂食状態から絶食状態へ切り替わる際、肝臓ではPFK-1とフルクトース1,6ビスホスファターゼの相対活性を変えることで、炭素の正味の流れを速やかに反転できる。褐色脂肪や骨格筋では、プロトン漏出やCa²⁺循環と組み合わさったエネルギー散逸回路が熱産生へ寄与する。