定義
合成致死は、遺伝子または経路AとBのどちらか一方だけが失われても細胞は生存できるが、両方の機能が同時に失われると生存不能になる関係である。腫瘍細胞が既に失っているDNA修復、細胞周期チェックポイント、代謝経路などと合成致死関係にある別の標的を薬理学的に阻害すれば、正常細胞を比較的温存しながら腫瘍細胞を選択的に障害できる。
イメージ
同じ重要な作業を二本の迂回路で支える道路網を考える。一方の道が壊れても、もう一方が残っていれば目的地へ到達できる。しかし両方を閉じると通れない。腫瘍細胞で最初の道が遺伝子異常により既に壊れている場合、残る二本目を薬で閉じることで腫瘍細胞へ選択性を持たせる。
仕組み
合成致死関係は、重複するDNA修復経路、複製フォーク保護、細胞周期チェックポイント、代謝サルベージ経路などで生じる。代表例では、相同組換え修復機能が低下した細胞が、PARP依存性のDNA損傷応答や複製フォーク保護へ強く依存する。PARP阻害によってPARPの捕捉や複製関連DNA損傷が増えると、相同組換えで修復できない細胞に染色体切断が蓄積し、細胞死へ至る。選択性は、腫瘍側の第一経路が本当に失われているか、正常組織が代替経路を保つか、薬剤が第二標的を十分阻害できるかで決まる。抵抗性は相同組換え機能の回復、薬剤標的の変化、複製フォーク保護の回復、薬剤排出、別の迂回経路獲得などで生じ得る。
例
BRCA1・BRCA2など相同組換え修復関連機能が失われた腫瘍にPARP阻害薬を用いる考え方が典型である。ほかにも、特定のドライバー変異、クロマチン制御因子欠損、代謝酵素欠損を持つ腫瘍で、その細胞だけが依存する経路を探索し、治療標的とする研究が行われる。