定義と要点
肺胞液クリアランスは、肺胞腔に入った液体を、肺胞上皮を介して間質・循環側へ除去する働きである。肺水腫の程度は液体の流入だけでなく、流入後の回収能力にも左右される。血管内皮から間質へ液体が出る過程と、肺胞上皮を越えて液体が除去される過程は別である。肺胞液クリアランスは、肺のリンパ還流そのものや、毛細血管でのスターリング力だけを意味する用語ではない。
どの量を見ているか
肺胞表面はガス交換のため薄い液層に保たれる必要がある。肺胞内に液体が増えると、酸素化、肺胞の安定性、呼吸仕事量に影響する。肺胞の上皮細胞は単に水を隔てる壁ではなく、イオンを輸送して水の移動を方向づける働きも持つ。Ⅰ型・Ⅱ型肺胞上皮細胞の両方が輸送に関与し、Ⅱ型細胞だけを液体回収の担当と考えるのは単純化しすぎである。
仕組みを順に考える
基本となるのは、肺胞腔側から上皮細胞へNa⁺が入り、基底側のNa⁺/K⁺-ATPaseによって間質側へ運ばれる流れである。ENaCなどのNa⁺経路がこれを支え、Cl⁻の移動も電気的中性を保つうえで関連する。生じる浸透圧的な駆動によって水が移動する。上皮の障壁が壊れれば、能動輸送があっても液体の回収は効率よく進まない。ARDSでは透過性亢進による流入に加え、上皮障害による回収能力低下が液体蓄積へ寄与する。
数値・症例で確かめる
臨床研究では、肺水腫液の蛋白濃度が時間とともに濃くなることを利用し、水分の除去を間接的に推定する方法が用いられてきた。教育用に、蛋白量が一定、初期液量100 mL、蛋白濃度1から2へ上がったと仮定すれば、液量は50 mLへ減った計算になる。ただし実際には蛋白の流入・移動、液体の追加流入、採取の偏りがあり、この単純な計算を患者へそのまま当てはめることはできない。
解釈の限界
細胞や摘出肺で輸送が増えたことは、その薬剤をARDS患者へ使えば予後が改善することを意味しない。β受容体刺激とイオン輸送の機序を学ぶ際も、基礎研究と臨床効果を分ける。酸素化の改善だけで肺胞液クリアランスを直接測定したとは言えず、PEEPによる肺胞リクルートメントや血流再分布でも酸素化は変わる。利尿、血管内圧の低下、上皮修復はそれぞれ違う段階へ作用する。