定義
自己誘導は、薬物が核内受容体や転写経路を介して、自らの代謝・排泄に関与する酵素または輸送体を誘導し、反復投与中に自身のクリアランスを増加させる現象である。時間依存性薬物動態は、投与量と投与間隔が同じでも、治療開始からの時間に応じて薬物動態パラメータが変化する広い概念であり、自己誘導はその代表例である。
イメージ
同じ薬を繰り返し使うと、身体がその薬を処理する装置を増やし、後半には同じ投与量でも速く分解するようになる。治療初期の濃度だけから長期の濃度を予測すると外れる可能性がある。
仕組み
薬物または代謝物がPXR、CAR、AhRなどの核内受容体を活性化すると、CYP、UGT、P糖タンパク質などの転写が増える。mRNAとタンパク質の合成には時間がかかるため、クリアランスは数日から数週間かけて上昇し、血中濃度と半減期が徐々に低下する。誘導速度と酵素分解速度は代謝回転モデルで表される。薬物曝露が低下すると誘導刺激も弱まるため、負のフィードバックを伴う。自己誘導は併用薬にも影響し、自身の曝露低下と同時に薬物相互作用を起こす。中止後も、誘導された酵素・輸送体が分解されるまで影響が残る。ただし、病態改善、抗薬物抗体、標的量変化なども時間依存性クリアランスを生むため、自己誘導と区別する必要がある。
例
反復投与開始後、同じ一日量を続けていても数週間かけてトラフ濃度が低下し、見かけのクリアランスが増えることがある。治療初期の半減期を用いた単純な蓄積予測より、定常状態の曝露量が低くなる。誘導される酵素の基質となる経口避妊薬などの濃度も同時に低下し得る。