定義
効果部位コンパートメントモデルは、測定可能な血漿中濃度から一定速度で平衡化する仮想的な作用部位濃度を設定し、薬物動態と薬力学的効果の時間差を記述するモデルである。PK–PDヒステリシスは、同じ血漿中濃度でも濃度上昇相と下降相で効果が異なり、濃度–効果図が輪を描く現象をいう。
イメージ
血液中の薬物濃度が上がっても、脳や受容体周辺へ到達して効果が出るまでには時間がかかる。血中濃度が下がり始めた後も作用部位には薬が残るため、同じ血中濃度でも「入っている途中」と「抜けている途中」で効果が異なる。
仕組み
作用部位コンパートメントには無視できるほど小さい容量を仮定し、その濃度Ceの変化をdCe/dt = ke0(Cp − Ce)で表す。Cpは血漿中濃度、ke0は血漿と作用部位の平衡化速度定数である。CeをEmaxモデル、シグモイドEmaxモデル、間接反応モデルへ接続すると、血漿中濃度より効果が遅れて現れる反時計回りのヒステリシスを小さくできる。平衡化半減期はln2/ke0で表され、作用部位への到達速度の目安となる。遅れの原因には組織分布、受容体結合、活性代謝物生成、細胞内情報伝達、生理学的反応の代謝回転などがある。急速な耐性、負のフィードバック、受容体脱感作があると時計回りのヒステリシスを示す場合がある。活性代謝物や間接反応が主体なら、単一の作用部位区画だけでは機序を十分に説明できない。
例
静脈内麻酔薬では、血漿中濃度が頂値を過ぎた後に脳内作用が最大となり、BISなどの効果指標と血漿中濃度の関係が反時計回りの輪を描くことがある。作用部位濃度を推定して投与を調節すると、血漿中濃度の頂値だけを見るより作用発現を近似しやすい。