定義
T細胞疲弊は、慢性ウイルス感染や腫瘍で持続的な抗原刺激と炎症にさらされたT細胞が、IL-2産生、増殖、細胞傷害活性、IFN-γ産生などを段階的に低下させ、PD-1、TIM-3、LAG-3、TIGITなどを発現する分化状態である。一時的な不応答や細胞老化とは異なり、自己複製能をもつ前駆疲弊T細胞と、機能低下の強い終末疲弊T細胞からなる階層を形成する。
イメージ
短期戦を前提とするT細胞が終わらない戦場に置かれると、全力攻撃を続けて組織を壊し尽くさないよう出力を下げる。ただし完全に停止するのではなく、弱い監視を続ける細胞と、治療などで再び増殖できる予備細胞が共存する。
仕組み
持続的T細胞受容体刺激、I型インターフェロン、IL-10、TGF-β、低酸素、栄養不足などがNFAT優位の転写を持続させ、TOX、NR4A、BATFなどを中心とする疲弊プログラムを誘導する。PD-1シグナルはCD28とT細胞受容体近位の情報伝達、PI3K–Akt系、代謝を抑制する。TCF1陽性の幹細胞様・前駆疲弊T細胞はリンパ組織内の特殊な環境に存在し、自己複製と免疫チェックポイント阻害後の増殖を担う。反復刺激を受けるとTCF1低発現の終末疲弊T細胞へ分化する。クロマチン開放状態は急性感染後のエフェクター・記憶T細胞と異なり、治療で機能が一部回復してもエピジェネティックな痕跡が残る。腫瘍微小環境では、グルコース不足、乳酸、アデノシン、抑制性骨髄系細胞が疲弊を増強する。疲弊は病原体・腫瘍制御を弱める一方、慢性抗原下の過剰な組織傷害を抑える適応でもある。
例
慢性ウイルス感染ではウイルス特異的CD8陽性T細胞がPD-1を高発現し、サイトカイン産生と増殖能が低下する。抗PD-1抗体は主にTCF1陽性前駆疲弊T細胞を増殖・分化させて抗腫瘍応答を再構築するが、すべての終末疲弊T細胞を正常な記憶T細胞へ戻すわけではない。