定義
標的介在性薬物動態は、薬物が薬理学的標的へ高親和性で結合し、薬物–標的複合体の内在化、分解、標的の代謝回転が分布と消失へ無視できない影響を与える現象である。標的量が有限であるため経路は飽和性を示し、特にモノクローナル抗体、ペプチド、タンパク質医薬品で非線形薬物動態の原因となる。
イメージ
標的へ結合すること自体が、薬を体内から回収する流し台のように働く。低濃度では空いている標的へ次々に捕まり速く消えるが、高濃度で標的が埋まるとこの消失経路が飽和し、薬物が血中へ長く残る。
仕組み
遊離薬物、遊離標的、薬物–標的複合体の間には、結合速度、解離速度、標的の産生・分解、複合体の内在化速度が存在する。低用量では標的を介する消失が大きな割合を占めるため、見かけのクリアランスが高く半減期が短い。用量を増やして標的占有率が高まると、この経路が飽和し、非特異的なタンパク分解や腎・肝消失など線形経路が相対的に優位となる。その結果、AUCは用量比例以上に増えることがある。標的量は腫瘍量、標的細胞数、可溶性標的放出、治療による標的低下で時間的に変化する。解析では準平衡近似、準定常状態近似、Michaelis–Menten近似が用いられるが、標的代謝回転を含む完全な機構を省略している。抗薬物抗体やFcRn再利用も別の非線形性として加わる。
例
細胞表面抗原を標的とするモノクローナル抗体では、腫瘍量が大きい時に標的による取り込みが大きく、クリアランスが速いことがある。治療で標的細胞が減ると、同じ投与量でも曝露量が増える可能性がある。低用量から高用量へ上げた際に用量補正AUCが増える場合、標的介在性経路の飽和が示唆される。