嗄声は、声がかすれる、粗くなる、弱くなるなどの音声異常である。声帯炎、反回神経麻痺、喉頭腫瘍、声の酷使などで生じる。
症状
嗄声(hoarseness)は、声帯の器質的・機能的異常によって発声時の声門閉鎖不全や声帯粘膜の対称性・周期的振動の乱れ(波動の不規則化)が生じることで発生する。病態生理学的には、1声帯粘膜の炎症(急性・慢性喉頭炎)、2腫瘤性病変(声帯結節、声帯ポリープ、ポリープ様声帯、喉頭癌)、3瘢痕・萎縮、4声帯運動障害(反回神経麻痺など)に大別される。特に反回神経(下喉頭神経)障害では、声帯外転・内転運動を司る喉頭内筋群(後輪状披裂筋、外側輪状披裂筋、披裂筋、甲状披裂筋など)が麻痺し、完全な声門閉鎖が不可能となるため、発声時に大量の呼気が呼気漏れとして生じる結果、気息性嗄声(breathy voice)を呈する。
詳細な問診と言語医学的・客観的評価、および耳鼻咽喉科的局所所見の確認を段階的に行う。1問診:発症様式(急性か慢性か)、持続期間(3週間以上は悪性腫瘍を考慮)、危険因子(重度の喫煙歴、飲酒歴)、職業・生活習慣(声の酷使、叫び声)、随伴症状(嚥下障害・誤嚥、咳嗽、血痰、呼吸困難、頸部腫瘤、原因不明の体重減少、甲状腺手術や胸部手術の既往)を聴取する。2客観的評価:声質の評価(GRBAS尺度:全般的嗄声度G、粗糙性R、気息性B、無力性A、緊張性Sによる聴覚的評価)を行い、最長発声持続時間(MPT:maximum phonation time)を測定する(通常15秒以上、10秒未満は声門閉鎖不全を示唆)。3局所・画像評価:間接喉頭鏡または喉頭内視鏡(ファイバースコープ)を用いて、安静時および発声時(「イ」の発声)における声帯の可動性、粘膜波動、腫瘤性病変の有無(発赤、白斑、潰瘍、新生血管)、声門閉鎖の程度をダイナミックに観察する。
嗄声の鑑別は、発症の時系列、声質(GRBAS)、患者背景からアプローチする。1急性喉頭炎:感冒などの上気道感染症状に随伴し、急性発症する。一過性(通常1〜2週間以内)で、声帯の急性充血と浮腫を特徴とし、局所の安静で軽快する。2反回神経麻痺(声帯麻痺):多くは片側性で、声門閉鎖不全による顕著な「気息性嗄声(ささやき声のような、息が漏れる声)」を呈し、同時に液体での誤嚥(むせ)を伴う。3声帯結節:学童期の男児や成人女性、歌手・教師など声の酷使歴がある人に好発する。声帯前・中1/3境界部に生じる対称性の小隆起で、「粗糙性嗄声(ガラガラ声)」を呈する。4ポリープ様声帯(ラインケ浮腫):ヘビースモーカーの壮年女性に多く、声帯全体が浮腫状に肥厚し、極めて低い「おっさん声(低音の粗糙性嗄声)」になる。5喉頭癌:圧倒的に高齢男性・重度喫煙者に多い。声帯遊離縁の白斑や不整な肉芽様腫瘤として認められ、消退することなく持続・進行する粗糙性嗄声(粗く、しわがれた声)が特徴である。
ただちに気道確保や専門医への緊急紹介を要する「見逃してはいけないサイン(Red Flags)」は以下の通りである。1気道緊急:吸気性喘鳴(stridor)、呼吸困難、陥没呼吸、急速に進行する頸部腫脹や疼痛を伴う嗄声。これらは急性急性喉頭蓋炎や喉頭浮腫、巨大腫瘍による上気道閉塞を示唆し、窒息のリスクがあるため、ただちに救急対応(気管挿管や輪状甲状靭帯切開・気管切開の準備)を要する。2悪性腫瘍の疑い:50歳以上の喫煙者・飲酒者における『3週間以上持続・進行する嗄声』に加え、血痰、同側の耳放散痛、頸部リンパ節腫脹、進行性の体重減少を伴う場合。喉頭癌や下咽頭癌、肺癌・縦隔腫瘍の神経浸潤を強く疑い、造影CTや生検を含めた早急な耳鼻咽喉科・専門医評価が必須である。3進行性神経疾患:球麻痺症状(構音障害、液体でのむせ、反復性肺炎)に伴う嗄声は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの変性疾患や脳幹梗塞を疑う。
CBT・医師国家試験、および臨床実習において頻出となるコアポイントを整理。1反回神経(迷走神経の分枝)の解剖学的走行と障害原因:左反回神経は、大動脈弓の下をくぐって胸腔内を上行するため、右に比べて走行が有意に長い。そのため、左反回神経麻痺の原因として「大動脈弓動脈瘤」「肺癌(左肺尖部癌:パンコースト腫瘍)」「縦隔腫瘍」「食道癌」による圧迫・浸潤が極めて重要である(国試頻出:嗄声を主訴に来院した患者で、まず胸部X線や胸部CTを撮らせる問題)。2医原性損傷:甲状腺癌手術、下咽頭癌手術、食道癌手術、大動脈瘤手術時の術中操作によって反回神経が損傷され、術後急性期に片側性声帯麻痺(嗄声・誤嚥)を来たすエピソードは臨床的・試験的に最重要。3両側性反回神経麻痺の危険性:甲状腺全摘術などで両側反回神経が障害された場合、声帯は正中位で固定(麻痺)される。この場合、声は比較的保たれる(嗄声は軽い)が、吸気時に声門が全く開かないため、術直後に「重度の吸気性呼吸困難(窒息リスク)」を来たし、緊急気管切開が必要となるパラドックスを確実に押さえること。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。