口渇は、口腔内の乾燥感や水分を欲する感覚である。脱水、高血糖、尿崩症、薬剤、唾液分泌低下などで生じる。
症状
口渇(thirst)は、体内の水分不足や浸透圧の上昇を感知し、個体に水分摂取を促す重要な生理的防御機構である。病態生理学的には、主として2つの経路によって視床下部の視索上核・室傍核に近接する「口渇中枢」が刺激されることで生じる。1渗透圧受容体経路:発汗、水制限、または高血糖などにより細胞外液の溶質濃度が上昇し、血漿浸透圧が基準値(約285〜295 mOsm/kg)を超えて上昇すると、前視床の視索前野にある渗透圧受容体がこれを感知して激しい口渇感を惹起する(同時に下垂体後葉からのバソプレシン/ADH分泌を促進する)。2容量受容体経路:大量出血、重度の下痢・嘔吐、利尿薬の過剰投与などにより有効循環血液量が減少(約10%以上の低下)すると、大動脈弓や頸動脈小体の高圧受容体、および心房壁の低圧受容体からの抑制性シグナルが減弱し、視床下部を刺激する。さらに、腎血流低下に伴いレニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系が活性化され、生成されたアンジオテンシンIIが脳内の「視床下部脳室周囲器官(穹窿下器官や血管終板器官)」を直接刺激することも強力な口渇誘発因子となる。このほか、ショウグレン症候群や薬剤の副作用(抗コリン作用)による唾液分泌の絶対的低下、口呼吸による口腔粘膜の局所的な乾燥も、末梢性シグナルとして口渇感(口腔乾燥感)をもたらす。
脱水の重症度評価、および多尿・多飲を来たす内分泌・代謝疾患の鑑別を目的に、段階的かつ定量的なアプローチを行う。1詳細な問診:発症の時系列、1日の正確な飲水量(多飲:3L/日以上を目安)および排尿回数・尿量(多尿:3000mL/日以上)、体重の急激な減少(数日での数%の減少は体液喪失を反映)、発汗、下痢、嘔吐の有無、口呼吸の習慣を聴取する。また、既往歴(糖尿病、精神疾患)や内服歴(利尿薬、SGLT2阻害薬、抗精神病薬、抗コリン薬など)を網羅的に確認する。2身体診察(体液量の評価):口腔粘膜・舌の乾燥度、皮膚ツルゴール(皮膚をつまんで戻るまでの時間:2秒以上は低下)、眼球陥凹、頸静脈の虚脱、仰臥位および立位での血圧・脈拍測定(起立性低血圧の有無:収縮期血圧20mmHg以上の低下、または脈拍20回/分以上の増加は循環血液量減少を示す)を確認する。3検体・画像検査:生化学検査での血糖値、血清ナトリウムおよび電解質、尿素窒素(BUN)/クレアチニン(Cr)比(20以上は腎前性脱水を示唆)、血漿浸透圧の測定・計算を行う。同時に、尿検査で尿比重(1.010未満は尿希釈、1.030以上は濃縮)、尿浸透圧、尿糖、尿ケトン体を速やかに評価する。
「口渇・多飲・多尿」の3徴を呈する病態は、以下の臨床的特徴から明確に鑑別する。1糖尿病(DM):インスリン作用不足による高血糖が糸球体濾過量を上回り、尿中に大量の糖が排泄されることで「浸透圧利尿」が生じる。これにより多尿となり、代償的に激しい口渇・多飲が引き起こされる。著明な体重減少と高血糖の持続が重要な手がかりである。2尿崩症(DI):視床下部・下垂体後葉の障害による抗利尿ホルモン(ADH)の分泌不全(中枢性尿崩症)、または腎臓のADH受容体障害(腎性尿崩症)により、集合管での水再吸収が不能となる病態。1日5〜10Lに及ぶ比重1.005以下の「低張尿(希釈尿)」が大量に排出され、それに伴う多飲・口渇が特徴である(DMと異なり尿糖は陰性、血清Na値は正常高値〜高Na血症傾向)。3精神因性多飲症:統合失調症などの精神疾患やストレスを背景に、口渇中枢の異常や強迫観念から「まず多飲があり、その結果として多尿になる」病態。尿崩症との鑑別には水制限試験や高張食塩水負荷試験を行い、ADHの分泌能および尿濃縮能を評価する(精神因性では水制限により尿が濃縮されるが、尿崩症では濃縮されない)。4薬剤性口腔乾燥(Dry mouth):抗コリン薬(抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、抗精神病薬など)の服用により、唾液腺のムスカリン受容体がブロックされ、尿量増加を伴わない純粋な口腔内乾燥感とそれに伴う水分摂取が生じる。
生命の危険に直結する、ただちに高度な救急初期治療(大量輸液・電解質管理)を要するサインは以下の通りである。1代謝性緊急症(DKA/HHS):著明な高血糖に伴う激しい口渇とともに、意識障害(昏睡、嗜眠)、悪心・嘔吐、腹痛、クスマウル呼吸(Kussmaul呼吸:深く大きな大呼吸)、呼気の果実臭(アセトン臭)を認める場合。糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や高浸透圧高血糖状態(HHS)という致死的な代謝急性合併症を強く疑う。2重症ショック・気道緊急:著明な低血圧(収縮期血圧90mmHg未満)、頻脈、皮膚の冷感・冷汗、チアノーゼ、極度の乏尿・無尿を伴う場合。敗血症性ショック、出血性ショック、脱水性ショックによる進行性の細胞低灌流状態であり、ただちに中心静脈路の確保と大量の細胞外液補給、原因加療を行わなければ多臓器不全(MODS)へ移行する。
CBT・医師国家試験、およびベッドサイドラーニング(実習)で最も得点に直結する最重要ポイント。1多尿・多飲の鑑別フローチャート:国試では「口渇・多尿」を主訴とする患者の検査データ(血糖、血清Na、尿浸透圧、尿比重)を読ませて診断させる問題が頻出である。まず「血糖値」を確認してDMを除外し、次に「尿浸透圧」を見て、血漿浸透圧(約290 mOsm/kg)より低い低張尿(<250 mOsm/kg)であれば尿崩症または精神因性多飲症に絞り込むアプローチを徹底すること。2水制限試験とバソプレシン(デスモプレシン:DDAVP)負荷試験:中枢性尿崩症、腎性尿崩症、精神因性多飲症の3者を確定診断するための試験手順は国試マスト知識。中枢性尿崩症では、水制限を行っても尿は濃縮されないが、外因性バソプレシンを投与すると速やかに尿浸透圧が上昇する。一方、腎性尿崩症ではバソプレシンを投与しても腎臓が反応しないため尿浸透圧は低いままである。精神因性多飲症では、水制限のみで尿浸透圧が上昇(通常>800 mOsm/kg)する。3水中毒(低ナトリウム血症)の危険性:精神因性多飲症の患者が過剰に(1日10〜20Lなど)水分を摂取し、腎臓の最大水排泄能を超えた場合、希釈性の低ナトリウム血症(水中毒)を来たす。急激な低Na血症は細胞内浮腫(特に対象となる脳浮腫)を引き起こし、頭痛、悪心、痙攣、昏睡を来たす。これを補正する際、急激に高張食塩水を投与すると「橋中央壊死症(中心性橋脱髄症候群:ODS)」という不可逆的な脳幹障害を引き起こすリスクがあるため、Na補正速度は1日8〜10 mEq/L以下に留めるという臨床的鉄則を確実に押さえること。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。