多尿は、1日の尿量が増加した状態である。糖尿病、尿崩症、利尿薬、電解質異常などで生じる。
症状
多尿(polyuria)は、成人において1日の総尿量が3,000mL(3L)以上に達した状態と定義される。病態生理学的には、腎臓の集合管における水再吸収機構の破綻、または糸球体濾過量(GFR)に対する溶質排泄過多により生じ、主として「浸透圧利尿」と「水利尿」の2つの機序に大別される。1浸透圧利尿(Osmotic diuresis):尿細管腔内にろ過された非再吸収性の溶質、または再吸収閾値を超えた溶質(高血糖時のグルコース、慢性腎不全や高タンパク食摂取時の尿素、マンニトール投与など)が存在することで、尿細管腔内の浸透圧が上昇する。これにより、近位尿細管やヘンレループ下行脚での受動的な水再吸収が阻害され、多量の溶質と共に水が排泄される。2水利尿(Water diuresis):溶質の過剰排泄を伴わない、純粋な自由水の排泄増加である。下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(バソプレシン/ADH)の分泌不全(中枢性尿崩症)、または腎臓集合管のV2受容体やアクアポリン2(AQP2)チャネルの障害・特異的反応低下(腎性尿崩症、高カルシウム血症、低カリウム血症、リチウム製剤の副作用など)により、集合管での水再吸収が著明に低下することで生じる。また、精神因性多飲症などによる過剰な水分摂取(原発性多飲)では、血漿浸透圧の低下に伴う生理的なADH分泌抑制が生じ、適切な水排泄反応として水利尿(多尿)が引き起こされる。このほか、ループ利尿薬やチアジド系利尿薬によるイオン輸送体(Na-K-2Cl共輸送体やNa-Cl共輸送体)の阻害も、強制的な尿量増加をもたらす。
正確な尿量の定量的把握(頻尿との区別)と、原因となる内分泌・代謝・腎疾患のスクリーニングを目的に、体系的な臨床評価を行う。1問診と実測評価:1日の正確な総尿量および排尿回数、夜間多尿の有無、代償性の多飲・口渇の程度を聴取する。多尿の自覚があっても、1回尿量が少なく総尿量が3L未満であれば「頻尿」として区別する。また、急激な体重変化(数日での減少は体液喪失、増加は過剰飲水を示唆)、内服歴(利尿薬、SGLT2阻害薬、リチウム、精神科薬)、糖尿病や頭部外傷・脳手術の既往を網羅的に確認する。2身体診察:脱水の程度(口腔粘膜の乾燥、皮膚ツルゴールの低下、眼球陥凹)を評価し、臥位・立位での血圧・脈拍測定により起立性低血圧や頻脈の有無(循環血液量減少の徴候)を確認する。3検体検査・データ解析:生化学検査(血糖、HbA1c、血清Na、K、Cl、Ca、BUN、Cr、尿酸)、および尿検査(尿糖、尿ケトン体、尿タンパク、尿比重)を速やかに行う。鑑別の決定打となる「血漿浸透圧」および「尿浸透圧」を同時測定し、尿浸透圧が300 mOsm/kg未満(低張尿)であれば水利尿、300 mOsm/kg以上(等張〜高張尿)であれば浸透圧利尿として病態を確定させる。
多尿を主訴とする病態は、尿比重・尿浸透圧および溶質の有無から以下のように明確に鑑別する。1糖尿病(DM):高血糖に起因する代表的な「浸透圧利尿」である。尿糖が強陽性(+)となり、尿浸透圧は300 mOsm/kg以上の高張尿(尿比重>1.020以上)を呈する。多飲・多尿に加え、顕著な体重減少、倦怠感が手がかりとなる。2尿崩症(DI):ADHの作用不全による典型的な「水利尿」である。尿糖は陰性で、尿浸透圧は250 mOsm/kg以下(多くは100 mOsm/kg前後)、尿比重は1.005以下の著明な低張尿(希釈尿)を大量に排泄する。脳腫瘍や頭部外傷の既往があれば中枢性、高Ca血症・低K血症・リチウム服用歴があれば腎性を疑う。3精神因性多飲症:水分過剰摂取による二次的な生理的水利尿。尿データは尿崩症と酷使する(低張尿)が、血清Na値が「正常低値〜低ナトリウム血症(水中毒)」を示す点で、正常高値〜高ナトリウム血症を示しやすい尿崩症と鑑別できる。4利尿薬の服用:特にループ利尿薬(フロセミドなど)の作用中には、等張〜やや低張の尿が大量に排泄される。高齢者の夜間多尿や、心不全・浮腫治療目的での服薬歴の確認が必須である。5急性腎障害(AKI)の回復期:腎機能が回復する際、一時的に尿濃縮能の回復が遅れるため、蓄積していた尿素などの排泄に伴う浸透圧利尿と相まって「多尿期」を迎え、1日4L以上の多尿を来たすことがある。
急激な電解質・体液バランスの破綻により、意識障害や生命の危機に直結する「見逃してはいけないサイン(Red Flags)」は以下の通りである。1高浸透圧・重度脱水症:多尿の持続に伴う極度の水分喪失に対し、水分摂取が追いつかない場合(特に高齢者や乳幼児、意識障害患者)、著明な高ナトリウム血症(血清Na>150 mEq/L)や血漿浸透圧上昇(>320 mOsm/kg)を来たす。これにより、脳細胞の脱水・萎縮が生じ、嗜眠、昏睡、痙攣などの重篤な中枢神経症状を惹起するため、ただちに1号液(低張電解質液)や5%ブドウ糖液による緊急細胞内脱水補正を要する。2ショック徴候:収縮期血圧90mmHg未満の低血圧、頻脈、末梢冷感、乏尿への転じる兆候など、有効循環血液量の枯渇による循環不全を認める場合、速やかな細胞外液(生理食塩水やリンゲル液)の大量静注が必要である。3糖尿病性急性合併症(DKA/HHS):高血糖による多尿に加え、クスマウル大呼吸、呼気のアセトン臭、悪心・嘔吐、進行性の意識障害を認める場合は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)または高浸透圧高血糖状態(HHS)を疑い、集中治療管理下で大量輸液とインスリン持続静注を開始する。
CBT・医師国家試験において絶対に取りこぼせない最重要コアポイント。1多尿と頻尿の決定的な違い:国試では「1日に何回もトイレに行く」という主訴に対し、それが「1回尿量が少ない頻尿(総尿量は正常)」なのか、「1回尿量も多く総尿量が3Lを超える多尿」なのかを初期研修医(受験生)が正しく評価できているかを問う問題が頻出である。排尿日誌(一日の排尿記録)による総尿量の測定が最優先アプローチとなる。2高カルシウム血症・低カリウム血症と腎性尿崩症:電解質異常が多尿の原因となる機序はCBTの生理学・病態生化学で超頻出である。高Ca血症は集合管のカルシウム感知受容体を介して、低K血症は主細胞のカリウムチャネルを介して、それぞれバソプレシンに対する感受性を低下(AQP2の膜発現を抑制)させ、腎性尿崩症を惹起する。多尿の症例問題で「K:2.8 mEq/L」や「Ca:11.5 mg/dL」を見たら、即座に腎性尿崩症を連想すること。3利尿薬の作用機序と副作用の対比:ループ利尿薬はヘンレループ太い上行脚の「Na-K-2Cl共輸送体(NKCC2)」を阻害し、髄質の高張性を消失させるため強力な利尿作用を持つ(副作用:低K血症、高Ca尿症)。チアジド系利尿薬は遠位尿細管の「Na-Cl共輸送体(NCC)」を阻害する(副作用:低K血症、低Na血症、高Ca血症)。この両者の「血清カルシウム値への影響の違い(ループは低下、チアジドは上昇)」は国試の超定番ひっかけポイントである。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。