芽胞を形成する偏性嫌気性桿菌で、食品中または腸管・創部で産生された神経毒により脳神経麻痺から下降性弛緩性麻痺を起こす。疑った時点で抗毒素を手配し、呼吸管理を開始する。
Clostridium botulinum
細菌
大型のグラム陽性桿菌であるが、培養が古くなるとグラム不定性を示すことがある。芽胞形成菌であり、芽胞は通常のGram染色では淡く観察される。
Clostridium属に属するグラム陽性細菌である。病原因子であるボツリヌス神経毒(Botulinum neurotoxin:BoNT)遺伝子は、菌株によって染色体、プラスミド、またはファージ上に存在する。ボツリヌス毒素は自然界で最も強力な神経毒の一つとして知られている。
偏性嫌気性・運動性陽性・芽胞形成性の桿菌である。菌体内に亜終末性芽胞(subterminal spore)を形成し、芽胞は熱や乾燥などの環境ストレスに対して極めて高い耐性を示す。産生するボツリヌス神経毒の抗原性によりA〜G型に分類され、ヒト感染症では主にA型、B型、E型、まれにF型が原因となる。
土壌、河川・湖沼・海底の底泥、魚介類、農産物、動物の腸管など自然界に広く分布する。芽胞は環境中で長期間生存でき、家庭内の食品や蜂蜜にも存在することがある。
食品ボツリヌス症は、自家製保存食品、缶詰、真空包装食品など嫌気環境で毒素が産生された食品を摂取することで発症する。乳児ボツリヌス症では蜂蜜や環境中の芽胞を摂取し、未熟な腸内で菌が増殖して毒素を産生する。創傷ボツリヌス症では創部や注射薬物使用部位で菌が増殖し、毒素を産生する。通常はヒトからヒトへの感染は起こらない。
最大の病原因子はボツリヌス神経毒(BoNT)である。毒素は末梢運動神経終末に取り込まれ、SNAREタンパク質(シナプトブレビン、SNAP-25、シンタキシン)を切断することでアセチルコリン放出を阻害する。その結果、神経筋接合部で神経伝達が遮断され、対称性の下降性弛緩性麻痺を引き起こす。
食品ボツリヌス症、乳児ボツリヌス症、創傷ボツリヌス症、医原性ボツリヌス症が代表的である。成人では複視、眼瞼下垂、散瞳、構音障害、嚥下障害、口渇に続いて、対称性の下降性弛緩性麻痺が進行し、重症例では呼吸筋麻痺による呼吸不全を来す。乳児では便秘、哺乳力低下、弱い啼泣、筋緊張低下(floppy baby症候群)が典型的である。
対称性の下降性弛緩性麻痺と食品摂取歴・蜂蜜摂取歴・創傷歴などから臨床的に疑う。血清、便、胃内容物、食品、創部検体からボツリヌス毒素または毒素遺伝子を検出して確定診断する。髄液所見は通常正常で、感覚障害や意識障害は基本的に認めない。検査結果を待たずに抗毒素投与を開始することが重要である。
呼吸状態を厳重にモニタリングし、呼吸筋麻痺が進行した場合は早期に人工呼吸管理を行う。成人および年長児ではボツリヌス抗毒素(多価抗毒素)を可能な限り早期に投与し、未結合毒素を中和する。乳児ボツリヌス症では乳児用ヒトボツリヌス免疫グロブリン(BIG-IV)を使用する。創傷型では創部デブリードマンと適切な抗菌薬(ペニシリン系またはメトロニダゾールなど)を併用する。神経へ結合した毒素には抗毒素は無効であるため、早期治療が極めて重要である。
自家製保存食品や真空包装食品は十分に加熱し、適切な温度管理を行う。膨張した缶詰や異臭のある食品は摂取しない。1歳未満の乳児には蜂蜜を与えないことが重要であり、日本の国家試験でも頻出事項である。創傷は十分に洗浄し、注射薬物使用者では創傷管理を徹底する。
Clostridium botulinumは『偏性嫌気性』『芽胞形成』『運動性陽性』『ボツリヌス神経毒』『下降性弛緩性麻痺』が重要キーワードである。ボツリヌス毒素はSNAREタンパク質を切断してアセチルコリン放出を阻害し、対称性の下降性弛緩性麻痺を引き起こす。Clostridium tetaniがGABA・グリシン放出を阻害して強直性(痙性)麻痺を起こすことと対比して覚えることが重要である。意識と感覚は保たれる一方、複視、眼瞼下垂、瞳孔散大、構音障害、嚥下障害が初発症状となる。乳児ボツリヌス症では『蜂蜜』『便秘』『哺乳不良』『floppy baby』をセットで理解する。また、抗毒素は神経へ結合した毒素には作用しないため、診断を疑った時点で速やかに投与することが国家試験・CBTの頻出事項である。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。