芽胞を形成する大型グラム陽性桿菌で、感染動物や動物製品、土壌中の芽胞から皮膚炭疽、吸入炭疽、消化管炭疽を起こす。疑った時点で検査室・保健当局と連携し、曝露後予防を含めて対応する。
Bacillus anthracis
細菌
大型のグラム陽性桿菌で、竹節状(bamboo appearance)あるいは箱形(boxcar-shaped)に連鎖して観察される。芽胞形成菌であるが、生体内では通常芽胞を形成せず、培養環境で芽胞を形成する。古い培養ではグラム不定性を示すことがある。
Bacillus cereus groupに属するグラム陽性細菌である。病原性は2種類の病原性プラスミドによって規定される。pXO1には炭疽毒素(防御抗原PA、浮腫因子EF、致死因子LF)の遺伝子が、pXO2にはポリD-グルタミン酸莢膜の遺伝子が存在し、両者を保有する株が強い病原性を示す。
好気性〜通性嫌気性・非運動性・芽胞形成性の大型桿菌である。血液寒天培地では通常非溶血性で、すりガラス状(ground-glass appearance)や『メデューサの頭(Medusa head)』と呼ばれる特徴的なコロニーを形成する。生体内ではポリD-グルタミン酸からなる莢膜を形成し、病原性に重要な役割を果たす。
ウシ、ヒツジ、ヤギなどの草食動物が主な宿主であり、死亡した動物から形成された芽胞は土壌中で数十年以上生存することがある。汚染された羊毛、毛皮、皮革、骨粉などの動物製品も感染源となる。
感染動物や汚染された動物製品との接触による皮膚感染が最も多い。芽胞を吸入すると吸入炭疽、汚染肉の摂取では消化管炭疽を発症する。近年では注射薬物使用者にみられる注射炭疽も報告されている。通常はヒトからヒトへの感染は起こらない。
病原性の中心はポリD-グルタミン酸莢膜と炭疽毒素である。莢膜は貪食を回避させる唯一のポリペプチド性莢膜である。炭疽毒素は防御抗原(Protective Antigen:PA)、浮腫因子(Edema Factor:EF)、致死因子(Lethal Factor:LF)の三成分毒素から構成される。PAが細胞への侵入口となり、EFはアデニル酸シクラーゼ活性によって細胞内cAMPを増加させ浮腫を引き起こし、LFはMAPキナーゼ経路を障害して細胞死やショックを誘導する。
皮膚炭疽が最も多く、無痛性丘疹から水疱を経て特徴的な黒色痂皮(eschar)を形成し、その周囲には著明な浮腫を伴う。吸入炭疽では出血性縦隔炎、縦隔リンパ節腫大、胸水、急速な呼吸不全や敗血症を来し、高い致死率を示す。消化管炭疽では腹痛、嘔吐、血便を呈し、注射炭疽では重篤な軟部組織感染を生じる。重症例では菌血症や炭疽性髄膜炎へ進展する。
皮膚病変、血液、髄液、胸水などから検体を採取するが、炭疽を疑った時点で検査室へ事前連絡し、適切なバイオセーフティ対策下でGram染色、培養、PCR、抗原検査などを実施する。通常の検査室で不用意にエアロゾルを発生させる操作は避ける。確定診断や疫学調査は地方衛生研究所や国立感染症研究所など行政機関と連携して行う。
軽症の皮膚炭疽ではシプロフロキサシンやドキシサイクリンなどを第一選択とする。吸入炭疽、炭疽性髄膜炎、全身性炭疽ではフルオロキノロン系を中心とした複数抗菌薬併用療法を行い、必要に応じて炭疽毒素中和抗体製剤(raxibacumab、obiltoxaximabなど)、集中治療、外科的感染源制御を組み合わせる。芽胞は長期間体内に残存する可能性があるため、曝露後予防や重症例では長期間の抗菌薬投与が必要となる。
家畜のワクチン接種や死亡動物の適切な処理、動物製品の衛生管理、個人防護具の着用が重要である。芽胞曝露後は長期の抗菌薬予防投与を行い、高リスク職業従事者やバイオテロ対策では炭疽ワクチンを使用することがある。日本では炭疽は感染症法上の一類感染症に指定されており、診断時は直ちに保健所へ届出を行い、公衆衛生当局と連携して対応する。
Bacillus anthracisは『大型グラム陽性桿菌』『非運動性』『非溶血性』『芽胞形成』『ポリD-グルタミン酸莢膜』が重要キーワードである。皮膚炭疽では無痛性の黒色痂皮(black eschar)と著明な周囲浮腫が典型所見であり、吸入炭疽では縦隔拡大・出血性縦隔炎・胸水を認める。炭疽毒素は防御抗原(PA)、浮腫因子(EF)、致死因子(LF)の三成分毒素で構成されること、PAが他の2因子の細胞内侵入を担うことは国家試験・CBT頻出事項である。また、Bacillus subtilisとの鑑別として『非運動性』『非溶血性』『莢膜形成』『高病原性』を整理して覚えることが重要である。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。