無尿は、尿がほとんど排出されない状態である。両側尿路閉塞、重度腎血流低下、重症急性腎障害などで生じる。
身体徴候
無尿(anuria)は、成人において1日の総尿量が100mL未満に低下した状態、または時間尿量が完全に途絶した状態と定義される。病態生理学的には、糸球体濾過量(GFR)が極限まで低下して尿生成がほぼ停止するか、あるいは生成された尿の排出経路が完全に遮断されることで生じ、急性腎障害(AKI)の最重症形態を反映する。1腎前性(腎血流の枯渇):敗血症性ショック、心原性ショック、大量出血、重度脱水などの超急性循環不全により、腎灌流圧が自己調節能の限界を超えて著明に低下すると、糸球体濾過が物理的に不可能となる。2腎性(広範な腎実質障害):急速進行性糸球体腎炎(RPGN)、重症の急性尿細管壊死(ATN)、急性間質性腎炎、あるいは両側性の腎皮質壊死や腎動脈閉塞症などにより、機能するネフロンが広範かつ不可逆的に破壊されることで生じる。3腎後性(完全尿路閉塞):無尿において最も臨床的に重要な機序であり、結石、悪性腫瘍(子宮頸癌、前立腺癌、大腸癌などの浸潤)、後腹膜線維症などによって「両側の尿管」または「単腎患者の片側尿管」、あるいは「尿道(下部尿路)」が完全に閉塞することで、尿が物理的に体外へ排出されなくなる。尿生成・排出の停止に伴い、本来排泄されるべき水分、カリウム、代謝性有機酸(水素イオン)、尿素窒素、クレアチニンが体内に急速に蓄積し、超急性期の尿毒症病態へと進行する。
無尿は生命を脅かす超緊急病態であり、カテーテル閉塞などの機械的エラーの除外から、画像診断を用いた原因特定までを分刻みで迅速に行う。1機械的トラブル・尿閉の除外(初手):尿道カテーテルが留置されている場合は、まずカテーテルの屈曲、閉塞、位置不良、または蓄尿バッグの測定誤差がないかを最優先で確認する(フラッシュ等による開通性の確認)。カテーテル未留置の場合は、下腹部の視診・触診、およびポータブル超音波(エコー)による膀胱内の尿貯留(膀胱膨隆)の有無を即座に評価し、尿が作られているが出せない「尿閉」を確実に除外する。2詳細な急性期の問診:発症のタイムライン(突然か、徐々にか)、排尿困難や尿線細少の既往、側腹部痛・背部痛(尿管結石を示唆)、悪性腫瘍の既往、骨盤内手術・血管内治療の履歴、新奇薬剤の服用(NSAIDs、ACE阻害薬、ARB、造影剤、抗抗菌薬など)を家族やカルテから迅速に聴取する。3身体診察と検体・画像評価:バイタルサイン(特に血圧、脈拍、呼吸数、SpO2)、浮腫の程度、頸静脈怒張、肺野のラ音(心不全・肺水腫の評価)を確認する。直ちに生化学検査(血清K、Na、Cl、Ca、BUN、Cr、高感度トロポニン)、血液ガス分析(pH、HCO3-、Lac)を提出し、並行して「腎エコー」を施行して、腎盂腎杯の拡張(水腎症の有無)を観察し、尿路閉塞を形態学的に評価する。
無尿・乏尿のアプローチにおいては、「尿閉(排尿障害)」との厳密な区別、および「腎前性・腎性・腎後性」の迅速な三者鑑別が必須である。1尿閉(Retention of urine):尿産生能は保たれているが、前立腺肥大症や神経因性膀胱、尿道結石などにより、下部尿路で排出が阻害されている病態。下腹部(恥骨上窩)が著明に膨隆し、激しい尿意や下腹部痛を伴う。エコーで膀胱内に大量の尿(数百〜1000mL以上)が描出されるのが決定打であり、導尿バルンカテーテル留置により一発で解決・診断される(真の無尿では膀胱は完全に空である)。2腎後性AKI(両側尿路閉塞):結石や骨盤内悪性腫瘍の浸潤による。突然の無尿発症が多く、腎エコーで高確率に「水腎症(腎盂・腎杯の拡張)」を認めるのが最大の特徴である。閉塞が解除されれば劇的に尿量が回復する。3腎前性AKI(ショック・低灌流):脱水や大出血、心不全、敗血症などの背景があり、血圧低下や頻脈、四肢冷感などのショック徴候を伴う。エコーで水腎症は見られず、初期であれば細胞外液の補充(負荷試験)によって尿量が反応・回復し得る。4腎性AKI(実質障害):RPGNなどの急性糸球体腎炎や、重症ATNなど。尿路閉塞やショックがないにもかかわらず無尿が持続し、エコーで腎サイズは正常〜やや腫大を呈する。輸液や利尿薬への反応性が極めて乏しく、透析管理を要することが多い。
無尿は原則としてそれ自体が超緊急のレッドフラッグ(致死的徴候)であるが、その中でも数時間以内の緊急透析(血液浄化療法)の導入を検討すべき絶対的適応サインは以下の通りである。1致死性不整脈・高カリウム血症:血清カリウム値が6.0 mEq/L以上、あるいは心電図上でテント状T波、QRS幅の延長、P波の消失などの高K血症性変化を認める場合。いつ心停止(心室細動や心静止)を起こしてもおかしくない極めて危険な状態であり、カルシウム製剤(グルコン酸カルシウム)の静注による心筋保護、GI療法(グルコース・インスリン療法)を行いながら、緊急透析の準備を行う。2急性肺水腫・低酸素血症:過剰な水分蓄積(体液過剰)により、仰臥位が取れないほどの呼吸困難(起坐呼吸)、肺野全体の湿性ラ音、胸部X線でのバタフライシャドウ、著明な低酸素血症(SpO2低下)を認める場合。利尿薬(フロセミド)を投与しても、無尿状態では反応しないため、酸素投与や非侵襲的陽圧換気(NPPV)による呼吸管理を行い、速やかに緊急透析(持続的血液濾過透析:CHDFなど)による除水を行う。3重度代謝性アシドーシス:血液ガスでpH 7.1未満、またはHCO3- 10 mEq/L未満の進行性アシドーシスを認め、尿毒症性昏睡や痙攣などの意識障害を随伴する場合。
CBT・医師国家試験、および救急外来実習において合否を分ける最重要コア知識。1無尿の患者に対するファーストステップ(超頻出臨床問題):国試において「尿が出ない」を主訴に来院した患者に対し、最初に行うべき対応を問う問題は鉄板。選択肢に「利尿薬の投与」や「大量輸液」があっても絶対に選んではいけない。正解は常に『尿道カテーテル留置(または閉塞の確認)』および『超音波検査による膀胱・腎盂の評価』である。まず尿閉と腎後性(尿路閉塞)という「物理的な原因」を除外するのが鉄則中の鉄則。2緊急透析(血液透析)の適応基準の語呂合わせ:国試・CBTマストの知識である緊急透析の適応は、英語の『A-E-I-O-U』で覚えるのが臨床的にも世界標準。【A】Acidosis(進行性の重度代謝性アシドーシス:pH<7.1)、【E】Electrolytes(内科的治療に抵抗性の高カリウム血症:K>6.0 mEq/L)、【I】Intoxication(透析除去可能な薬物中毒:リチウム、サリチル酸、メタノールなど)、【O】Overload(利尿薬不応性の体液過剰・急性肺水腫)、【U】Uremia(心膜炎、脳症、消化管出血などの重篤な尿毒症症状)。この基準と、提示された症例のバイタル・生化学データを照らし合わせる問題が非常に多く出題される。3単腎患者の臨床的特異性:生まれつき片方の腎臓がない(先天性単腎)、あるいは腎癌などで片摘している患者においては、「片側の尿管結石(1箇所の閉塞)」が起きるだけで、即座に完全な「腎後性無尿」を来たす。臨床問題の文脈に「過去に右腎摘出の既往がある」と書かれており、左の側腹部痛と突然の無尿を訴えている場合は、一発で単腎の急性尿管閉塞(腎後性AKI)を診断させるサインである。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。