診察や観察で確認できる身体徴候を、病態との関係・確認方法・鑑別の観点から整理します。
Biot呼吸は、呼吸の深さと間隔が不規則となり、予測不能な無呼吸を挟む異常呼吸である。延髄を中心とする呼吸中枢の障害、髄膜炎、頭蓋内圧亢進、薬物中毒などでみられ、呼吸停止へ進行し得る重篤な所見である。
Blumberg徴候は、腹壁をゆっくり圧迫した後に急に手を離すと、圧迫時より解除時に強い疼痛が生じる所見である。反跳痛と同義で、壁側腹膜の炎症を示唆するが、患者への負担が大きいため反復して確認しない。
Cheyne–Stokes呼吸は、呼吸の深さが徐々に増大した後、徐々に減少し、無呼吸または低呼吸へ移行する周期性呼吸である。重症心不全、中枢神経障害、高地滞在、中央型睡眠時無呼吸などでみられ、循環遅延と呼吸調節系の不安定化が関与する。
coarse cracklesは、fine cracklesより低調で持続が長く、粗い断続性副雑音である。中枢寄りの気道内分泌物、気道の開閉、液体貯留により生じ、肺炎、気管支拡張症、COPD、肺水腫などで聴取される。
Courvoisier徴候は、閉塞性黄疸の患者で、疼痛を伴わない腫大した胆囊を触知する所見である。胆石よりも膵頭部癌、遠位胆管癌、乳頭部癌などの悪性胆道閉塞を示唆するが、例外も多く単独で診断はできない。
Cullen徴候は、臍周囲に出現する青紫色から暗赤色の皮下出血斑である。腹腔内・後腹膜出血が腹壁皮下へ進展した所見で、重症急性膵炎、異所性妊娠破裂、腹部外傷などでみられるが、出現は遅く感度も低い。
fine cracklesは、主に吸気終末に聴取される、高調で短く、細かい断続性副雑音である。間質性肺疾患、肺線維症、肺水腫、初期肺炎などでみられ、閉じていた末梢気道や肺胞が吸気時に急に開くことで生じる。
Grey Turner徴候は、側腹部から腰部に出現する青紫色・暗赤色の皮下出血斑である。後腹膜出血が筋膜面を通って皮下へ進展した所見で、重症急性膵炎、後腹膜出血、腹部外傷などを示唆する。
III音は、II音直後の拡張早期に生じる低周波心音であり、急速流入した血液によって心室壁や腱索が振動して生じる。小児、若年者、妊婦では生理的な場合があるが、中高年では心室容量負荷や収縮不全を示唆する。
II音固定性分裂は、II音を構成する大動脈弁閉鎖音と肺動脈弁閉鎖音の間隔が広く、吸気・呼気でほとんど変化しない所見である。心房中隔欠損症に典型的で、右室への持続的容量負荷によって肺動脈弁閉鎖が遅れる。
IV音は、I音直前の拡張末期に生じる低周波心音であり、心房収縮によって血液が硬く拡張しにくい心室へ流入する際に生じる。高血圧性左室肥大、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症、心筋虚血などを示唆し、心房細動では生じない。
Kussmaul呼吸は、深く大きく、規則的で持続する呼吸様式であり、重度代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償としてみられる。糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、尿毒症などが代表原因で、単なる不安性過呼吸とは病態が異なる。
Kussmaul徴候は、吸気時に頸静脈圧が低下せず、かえって上昇する身体所見である。吸気によって増加した静脈還流を右心系が受け入れられないことを示し、収縮性心膜炎、拘束型心筋症、右室梗塞、重症右心不全などでみられる。
McBurney点圧痛は、臍と右上前腸骨棘を結ぶ線上で、右上前腸骨棘から約3分の1内側に相当する部位の圧痛である。典型的な急性虫垂炎でみられるが、虫垂の位置や妊娠、体格によって圧痛部位は変化する。
Murphy徴候は、右季肋部を圧迫したまま患者に深く吸気させると、下降した胆囊が診察者の指へ接触して強い痛みを生じ、吸気が途中で止まる所見である。急性胆囊炎を示唆するが、高齢者や壊疽性胆囊炎では陰性となることがある。
Raynaud現象は、寒冷や精神的緊張を契機に手指・足趾の小動脈が発作性に収縮し、蒼白、チアノーゼ、発赤などの色調変化を生じる現象である。原発性と膠原病などに伴う二次性があり、潰瘍や左右差は二次性を示唆する。
rhonchiは、比較的太い気道の分泌物や不規則な狭窄によって生じる、低調でいびき様の連続性副雑音である。急性・慢性気管支炎、COPD、気管支拡張症、分泌物貯留などでみられ、咳嗽や吸引によって変化しやすい。
stridorは、喉頭や気管など上気道の高度狭窄によって生じる、高調で粗い呼吸音である。吸気性が多いが、狭窄部位により二相性・呼気性となる。気道異物、クループ、喉頭蓋炎、アナフィラキシー、腫瘍などでみられ、気道閉塞の緊急警告所見である。
wheezesは、狭窄した気道を空気が通過する際に生じる、高調で笛のような連続性副雑音である。喘息、COPD、気道浮腫、気管支攣縮などで聴取され、通常は呼気に強い。局所性単音性wheezeでは腫瘍や異物による固定性気道狭窄を考える。
チアノーゼは、皮膚や粘膜が青紫色に見える身体徴候である。還元ヘモグロビン増加により生じ、中枢性と末梢性に分けて評価する。
メデューサの頭は、臍を中心に拡張・蛇行した腹壁静脈が放射状に広がる所見である。門脈圧亢進によって臍傍静脈と腹壁静脈の側副血行路が発達して生じ、肝硬変など進行した門脈圧亢進を示唆する。
リンパ節腫脹は、リンパ節が通常より大きく触知される身体徴候である。感染症、自己免疫疾患、悪性リンパ腫、転移性腫瘍などで生じる。
下腿浮腫は、膝より遠位の下肢に間質液が貯留して腫脹した状態である。心不全、静脈うっ滞、深部静脈血栓症、腎疾患、薬剤などで生じる。
不整脈は、心拍の発生または伝導に異常が生じ、心拍数やリズムが正常範囲から外れた状態である。無症状の期外収縮から、失神や突然死につながる心室頻拍・心室細動まで重症度は幅広い。
企図振戦は、目標へ向かう随意運動中に出現し、目標へ近づくほど振幅が増大する振戦である。小脳半球または小脳の入出力経路の障害を示唆する。
低血圧は、血圧が低く、脳、心臓、腎臓などへの灌流が不足し得る状態である。体質的に無症状のこともあるが、急性発症で意識障害、冷汗、乏尿を伴う場合はショックや重篤な循環不全を示唆する。
低酸素血症は、動脈血中の酸素分圧が低下した状態である。換気血流比不均衡、シャント、拡散障害、低換気、吸入酸素分圧低下などで生じ、重症では臓器障害を引き起こす。
全身浮腫は、顔面、体幹、四肢など広範囲に間質液が貯留した状態である。心不全、ネフローゼ症候群、腎不全、肝硬変、重度低栄養などで生じる。
冷汗は、皮膚が冷たく湿潤する発汗であり、交感神経が急激に亢進した際にみられる。ショック、急性冠症候群、低血糖、強い疼痛、失神前状態などの重要な警告所見である。
反跳痛は、腹壁をゆっくり圧迫した後に急に手を離した際、圧迫中よりも強い痛みが誘発される所見である。壁側腹膜の炎症を示唆する腹膜刺激徴候の一つだが、検査による苦痛が大きいため反復せず、咳嗽痛や打診痛も活用する。
収縮期雑音は、I音からII音までの心室収縮期に聴取される持続性心雑音である。駆出性雑音と全収縮期雑音が中心で、大動脈弁狭窄症、僧帽弁逆流、三尖弁逆流、心室中隔欠損症、機能性雑音などを鑑別する。
口すぼめ呼吸は、鼻から吸気し、口唇をすぼめて抵抗をかけながらゆっくり呼気する呼吸様式である。COPD、特に肺気腫で自発的にみられ、呼気時の末梢気道虚脱を抑え、呼気時間を延長して動的過膨張や呼吸困難を軽減する。
圧痕性浮腫は、腫脹部を指で圧迫した後にくぼみが残る浮腫である。心不全、腎疾患、静脈うっ滞、低アルブミン血症などでみられる。
声音振盪低下は、発声による胸壁の振動が周囲や対側より弱く触知される身体所見である。胸水、気胸、主気管支閉塞、閉塞性無気肺、肺気腫など、音声振動の発生部位から胸壁までの伝達が遮られる病態を示唆する。
奇脈は、吸気時に収縮期血圧が過度に低下する身体所見である。一般に吸気時の収縮期血圧低下が10mmHgを超える場合を指し、心タンポナーデ、重症喘息・COPD、緊張性気胸などでみられる。名称に反して脈拍が逆転する所見ではない。
奔馬調律は、I音・II音にIII音またはIV音が加わり、頻脈下で馬の駆け足のような三拍子として聴取される心音である。III音性、IV音性、両者が融合するsummation gallopがあり、成人では心不全や心室コンプライアンス低下を示す重要所見となる。
姿勢時振戦は、上肢を前方へ伸ばすなど、重力に抗して一定姿勢を保持した際に出現または増強する振戦である。本態性振戦、生理的振戦の増強、薬剤性、甲状腺機能亢進症などでみられる。
安静時振戦は、筋が随意的に活動していない安静状態で最も目立ち、動作を始めると軽減する振戦である。Parkinson病の代表的所見で、片側上肢から始まることが多い。
尿閉は、膀胱内に尿が貯留しているにもかかわらず、尿を排出できない、または十分に排出できない状態である。急性尿閉では強い下腹部痛を伴い、慢性尿閉では症状が乏しいまま腎障害や溢流性尿失禁へ進行する。
左右脈拍差は、左右同名動脈で脈拍の振幅、立ち上がり、到達時刻が異なる所見である。鎖骨下動脈狭窄、大動脈解離、大血管炎、塞栓・血栓などを示唆し、急性胸痛や肢虚血を伴う場合は緊急評価を要する。
徐呼吸は、年齢や状況に対して呼吸数が低下した状態である。睡眠中や運動選手では生理的なこともあるが、中枢神経障害、薬物中毒、低体温、呼吸筋疲労では呼吸不全の前兆となる。
徐脈は、安静時の心拍数が通常より遅い状態である。運動習慣による生理的徐脈もあるが、洞不全症候群、房室ブロック、薬剤、虚血、電解質異常では失神や循環不全を生じる。
心尖拍動偏位は、左室による最外側・最下方の収縮性拍動が通常位置から移動した所見である。左室拡大では左下方へ偏位し、心拡大の身体所見となるが、胸郭変形、横隔膜位置、肺過膨張、縦隔偏位でも位置が変化する。
心膜摩擦音は、炎症により粗造化した臓側心膜と壁側心膜が心拍に伴って擦れ合うことで生じる、高調で擦過性の付加音である。急性心膜炎に特徴的で、胸骨左縁で前傾姿勢にすると聴取しやすい。
手袋靴下型感覚障害は、両側の足先から下腿、進行すると手指から前腕へ、手袋や靴下を着けたように左右対称性に広がる感覚障害である。長さ依存性多発ニューロパチーに典型的で、糖尿病が代表原因となる。
打診濁音は、胸壁を打診した際に正常肺野の共鳴音より低く、短く、鈍い音を認める所見である。胸水、肺炎、無気肺、腫瘤など、胸壁下の空気量が減少し液体や実質組織の割合が増えた場合に生じる。
拡張期雑音は、II音から次のI音までの心室拡張期に聴取される心雑音である。大動脈弁逆流、肺動脈弁逆流、僧帽弁狭窄症、三尖弁狭窄症などで生じ、一般に病的所見として原因検索が必要となる。
末梢冷感は、手足など四肢末端が冷たく感じられる、または触診で冷たい状態である。寒冷曝露のほか、心拍出量低下、ショック、末梢動脈疾患、自律神経異常などで生じる。
板状硬は、腹壁が板のように硬く緊張し、呼吸や患者の意思によっても弛緩しない高度の腹膜刺激所見である。消化管穿孔、汎発性腹膜炎、腹腔内出血などを強く示唆し、緊急外科評価を要する。
構音障害は、言語内容や理解は保たれているにもかかわらず、発声・共鳴・構音・呼吸運動の障害によって発音が不明瞭となる状態である。中枢神経、脳神経、神経筋接合部、筋疾患などで生じる。
樽状胸郭は、胸郭の前後径が増大し、側面から丸みを帯びた樽状に見える形態所見である。肺気腫を中心とする慢性肺過膨張で典型的だが、加齢や体格でもみられるため、単独ではCOPDを確定できない。
気管偏位は、頸部または胸郭内で気管が正中から左右いずれかへ移動した所見である。肺容量が減少する無気肺・線維化では病変側へ、緊張性気胸や大量胸水など胸腔内圧・容積が増大する病態では反対側へ偏位することがある。
浮腫は、間質に水分が過剰に貯留し、組織が腫脹した状態である。心不全、腎疾患、肝疾患、静脈やリンパ流障害などで生じる。
無呼吸は、一定時間にわたり呼吸運動または有効な気流が停止した状態である。気道閉塞、中枢性呼吸停止、神経筋障害、心停止、睡眠関連呼吸障害などで生じる。
無尿は、尿がほとんど排出されない状態である。両側尿路閉塞、重度腎血流低下、重症急性腎障害などで生じる。
眼瞼浮腫は、眼瞼周囲の皮下組織に液体が貯留して腫脹した状態である。腎疾患、アレルギー、感染、甲状腺眼症、局所静脈・リンパ障害などで生じる。
睡眠時無呼吸は、睡眠中に気流が反復して停止または著しく低下する所見である。上気道が閉塞する閉塞性、呼吸中枢からの駆動が消失する中枢性、両者が混在する混合性に分かれ、低酸素血症、睡眠分断、日中傾眠、心血管合併症を引き起こす。
筋性防御は、腹腔内の炎症に対して腹壁筋が不随意かつ持続的に収縮し、触診時に腹壁が硬くなる所見である。壁側腹膜の刺激を示し、随意性の腹筋緊張と区別する。限局性または汎発性に出現する。
経皮的酸素飽和度低下は、パルスオキシメータで測定されるSpO2が低下した所見である。低酸素血症を示唆するが、末梢循環不良、体動、マニキュア、異常ヘモグロビンなどによる誤差もある。
疾患・概念・薬・検査・症状徴候・病原体を横断して確認できます。