心尖拍動偏位は、左室による最外側・最下方の収縮性拍動が通常位置から移動した所見である。左室拡大では左下方へ偏位し、心拡大の身体所見となるが、胸郭変形、横隔膜位置、肺過膨張、縦隔偏位でも位置が変化する。
身体徴候
心尖拍動は左室収縮時に心臓が胸壁へ接触して生じる拍動で、正常成人では一般に左第5肋間、鎖骨中線付近に限局して触知される。左室容量負荷や収縮機能低下によって左室内腔が拡大すると、心臓全体が左下方へ広がり、心尖拍動も外側・下方へ偏位する。僧帽弁逆流、大動脈弁逆流、拡張型心筋症、慢性心不全などが代表的原因となる。圧負荷による左室肥大では位置が正常に近くても、持続時間の長い抬起性拍動を示すことがある。横隔膜挙上、妊娠、腹水では心臓が上外側へ移動し、肺気腫では過膨張肺が心臓を覆うため拍動が触れにくくなる。胸水、気胸、無気肺、胸郭変形でも縦隔位置が変化し、心尖拍動が移動する。したがって偏位は必ずしも左室拡大だけを意味しない。
患者を仰臥位または上体を30度程度挙上した状態とし、胸部を露出する。まず前胸部を観察し、手掌全体で拍動の位置を探した後、指腹で最外側・最下方の収縮性拍動を特定する。触れにくい場合は左側臥位とし、呼気終末で確認する。肋間と鎖骨中線との位置関係、拍動範囲、振幅、持続時間を記録する。左側臥位では心臓が胸壁へ近づくため、位置が生理的に外側へ移動することを考慮する。拍動が複数ある場合は、最外側・最下方の拍動を心尖拍動とする。胸郭変形、乳房、肥満、肺気腫によって触知困難となることがある。心音、心雑音、頸静脈圧、浮腫、肺cracklesを評価し、偏位が疑われれば胸部X線、心電図、心エコーで心腔径、壁厚、収縮能、弁膜症を確認する。
左室拡大では心尖拍動が左下方へ偏位し、範囲が広くなる。左室圧負荷では位置の偏位が軽くても、持続性で抬起性の拍動を認める。右室肥大では胸骨左縁の傍胸骨拍動が目立ち、心尖拍動とは位置が異なる。肺気腫では心臓が過膨張肺に覆われ、偏位より触知困難が目立つ。胸水・気胸・無気肺では気管や縦隔の偏位を伴い、心尖拍動も受動的に移動する。左側臥位で生理的に外側へ移動した拍動を病的偏位と誤認しない。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。