Kussmaul徴候は、吸気時に頸静脈圧が低下せず、かえって上昇する身体所見である。吸気によって増加した静脈還流を右心系が受け入れられないことを示し、収縮性心膜炎、拘束型心筋症、右室梗塞、重症右心不全などでみられる。
身体徴候
正常では吸気時に胸腔内圧が低下し、体静脈から右房への静脈還流が増加する。右室が増加した血液を受け入れると右房圧は低下し、内頸静脈の拍動上縁も下降する。右室拡張が制限されている場合、吸気で静脈還流が増えても右室へ血液が流入できず、血液が右房と体静脈系へ滞留する。その結果、吸気時に頸静脈圧が低下しない、または上昇する。収縮性心膜炎では硬化した心膜が右室拡張を妨げ、拘束型心筋症では心筋の拡張能が低下する。右室梗塞、重症右室不全、肺高血圧、三尖弁狭窄でも同様の機序が生じる。心タンポナーデも右室充満を妨げるが、吸気時の右室拡張と心室間相互作用によって頸静脈圧が低下することが多く、典型的にはKussmaul徴候を示しにくい。
患者を30から45度の半座位とし、右内頸静脈の拍動上縁を観察する。頭部を軽く左へ向けるが、胸鎖乳突筋を緊張させない。患者にゆっくり深呼吸してもらい、吸気時に頸静脈拍動が下降するか、上昇するかを確認する。胸郭運動と呼吸相を同時に観察し、息こらえや努力性吸気を避ける。頸動脈拍動と誤認しないよう、非触知性、二峰性、体位変化を確認する。吸気時に頸静脈圧が明らかに上昇する、または下降しない場合を陽性とする。頸静脈圧の基準値、hepatojugular reflux、下腿浮腫、肝腫大、腹水、心膜ノック音、心雑音を併せて評価する。心エコー、心臓CT・MRI、右心カテーテル検査は原因疾患に応じて行う。
収縮性心膜炎と拘束型心筋症はいずれもKussmaul徴候を示し得る。収縮性心膜炎では心膜石灰化、心膜ノック音、呼吸性心室相互作用が手がかりとなり、拘束型心筋症では心筋肥厚や浸潤性疾患の所見がみられる。心タンポナーデでは頸静脈圧は上昇するがKussmaul徴候は典型的でなく、奇脈が重要となる。重症COPDでは大きな胸腔内圧変化により頸静脈が吸気時に目立つように見える場合がある。hepatojugular refluxは腹部圧迫による持続的頸静脈圧上昇であり、吸気時変化を見るKussmaul徴候とは異なる。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。