Murphy徴候は、右季肋部を圧迫したまま患者に深く吸気させると、下降した胆囊が診察者の指へ接触して強い痛みを生じ、吸気が途中で止まる所見である。急性胆囊炎を示唆するが、高齢者や壊疽性胆囊炎では陰性となることがある。
身体徴候
急性胆囊炎では、多くの場合、胆石による胆囊管閉塞を契機に胆囊内圧が上昇し、胆囊壁へ炎症が生じる。胆囊は右季肋部の肝下面に位置し、吸気時に横隔膜と肝臓が下降すると、炎症を起こした胆囊も腹壁方向へ移動する。診察者が右肋骨弓下を圧迫した状態で深吸気させると、下降した胆囊が指へ接触し、壁側腹膜と胆囊壁への刺激によって急激な疼痛が誘発される。患者は痛みのため吸気を途中で停止する。この吸気停止がMurphy徴候の本質であり、単に右季肋部を押して痛いことだけでは陽性としない。胆石発作では胆囊管閉塞が一時的でも明確な炎症を欠く場合があり、Murphy徴候は陰性となることがある。壊疽性胆囊炎では胆囊壁の神経障害、高齢者や糖尿病患者では知覚低下により、重症であっても所見が弱いことがある。
患者を仰臥位とし、腹部を露出して膝を軽く曲げ、腹壁を弛緩させる。まず浅い呼吸中に右季肋部の圧痛部位を確認する。診察者は右手の指腹を右肋骨弓直下、鎖骨中線付近へ置き、呼気時にゆっくり圧迫する。そのまま患者に深く吸気してもらい、疼痛によって吸気が急に停止するかを観察する。単なる痛みの訴えだけでなく、呼吸運動の中断を確認する。左季肋部でも同様の圧迫を行い、右側だけで吸気停止が生じるか比較すると特異性を高められる。強い筋性防御や腹膜刺激徴候がある場合は無理に反復しない。発熱、悪心、嘔吐、黄疸、右肩・背部への放散、食事との関連を確認する。血算、CRP、肝胆道系酵素、ビリルビンを測定し、腹部超音波で胆石、胆囊壁肥厚、胆囊腫大、胆囊周囲液体貯留、超音波Murphy徴候を評価する。超音波Murphy徴候は、プローブで胆囊直上を圧迫した際に最大圧痛を認める所見である。
胆石発作では心窩部から右季肋部の強い持続痛を認めるが、発熱や明確な炎症所見を欠き、Murphy徴候が陰性のことが多い。急性胆囊炎では6時間以上持続する右季肋部痛、発熱、炎症反応、Murphy徴候、超音波所見を組み合わせる。急性胆管炎では黄疸と胆管拡張が重要となる。肝炎・肝膿瘍では肝腫大と肝実質圧痛、右下葉肺炎では咳嗽、呼吸音異常、胸膜痛を伴う。肋軟骨炎や腹壁痛では局所圧迫で痛むが、吸気時に下降する胆囊との接触による典型的吸気停止を欠く。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。