水・土壌に存在する迅速発育性非結核性抗酸菌で、気管支拡張症や嚢胞性線維症の難治性肺感染、医療処置後の皮膚軟部組織感染を起こす。誘導性マクロライド耐性の評価が治療を左右する。
Mycobacterium abscessus subsp. abscessus
細菌
グラム陽性菌に分類されるが、細胞壁にミコール酸を豊富に含むためGram染色では淡く染色されるか染色不良となることが多い。Ziehl-Neelsen染色や蛍光抗酸染色では抗酸性桿菌として観察される。非結核性抗酸菌(NTM)の一種であり、迅速発育抗酸菌(Rapidly Growing Mycobacteria:RGM)に分類される。
Mycobacterium abscessus complex(MABC)に属し、M. abscessus subsp. abscessus、M. abscessus subsp. massiliense、M. abscessus subsp. bolletiiの3亜種に分類される。M. abscessus subsp. abscessusでは機能性erm(41)遺伝子を有することが多く、誘導性マクロライド耐性を示すことが臨床上極めて重要である。
非運動性・非芽胞形成性・偏性好気性の抗酸菌である。迅速発育抗酸菌であり、固形培地では通常7日以内にコロニーを形成する。コロニーにはグリコペプチドリピッド(GPL)を豊富に発現する平滑型(smooth)と、GPLが減少した粗面型(rough)があり、粗面型はコード形成を示し病原性が高い。
水道水、シャワー、水回り設備、土壌、塵埃、医療施設の給水系統、内視鏡、手術器具、美容医療機器など自然環境および医療環境に広く存在する。消毒薬に対する抵抗性が比較的高く、医療関連感染の原因となることがある。
環境中のエアロゾル吸入による肺感染、創傷への汚染水接触、手術・注射・美容医療・脂肪吸引・内視鏡などで汚染器材を介した感染が主な感染経路である。通常はヒトからヒトへの感染はまれであるが、嚢胞性線維症(CF)患者間では近縁株による伝播が報告されている。
ミコール酸を主体とする脂質豊富な細胞壁、マクロファージ内生存能、バイオフィルム形成能、粗面型でみられるコード形成(cord formation)が組織侵襲や持続感染に関与する。erm(41)遺伝子は病原因子ではなく、マクロライドに対する誘導性耐性を担う耐性遺伝子である。
気管支拡張症や嚢胞性線維症(CF)を背景とした慢性肺感染症が代表的である。また、術後創感染、美容医療後感染、皮膚・軟部組織感染、注射部位膿瘍、カテーテル関連感染、骨髄炎、関節感染、角膜炎など多彩な日和見感染症を引き起こす。術後創部の難治性結節や排膿が続く場合は本菌を疑う。
喀痰、気管支洗浄液、創部組織などを用いて抗酸菌培養を行い、迅速発育抗酸菌として分離する。M. abscessus complex内の亜種同定が治療方針に直結するため、PCRや遺伝子解析による同定が重要である。薬剤感受性試験ではクラリスロマイシンを3日目だけでなく14日目にも判定し、erm(41)による誘導性マクロライド耐性を評価する。通常の結核菌用感受性試験は適さない。
治療は極めて難治性であり、単剤治療は禁忌である。初期治療ではアミカシン、イミペネム、セフォキシチンなどの注射薬とマクロライドを組み合わせた多剤併用療法を行い、必要に応じてクロファジミン、チゲサイクリン、リネゾリドなどを追加する。M. abscessus subsp. abscessusではerm(41)による誘導性耐性のため、マクロライドを有効薬剤数に含められないことが多い。限局性肺病変や難治例では肺切除など外科治療を併用することもある。
医療器具の適切な洗浄・高水準消毒・滅菌、水道設備や内視鏡洗浄装置の管理、無菌操作の徹底が重要である。術後に通常の抗菌薬で改善しない創部感染や集団発生が認められた場合は、迅速発育抗酸菌によるアウトブレイクを疑い、環境調査や感染対策を実施する。
Mycobacterium abscessus subsp. abscessusは『迅速発育抗酸菌(7日以内)』『非結核性抗酸菌(NTM)』『難治性感染』『erm(41)による誘導性マクロライド耐性』が最重要キーワードである。クラリスロマイシン感受性は3日目だけで判断せず14日目まで評価すること、M. massilienseではerm(41)が機能しないためマクロライドが有効となることとの違いは国家試験や専門試験で重要である。肺感染や術後感染の治療は注射薬を含む多剤併用療法が基本であり、マクロライド単剤治療は耐性化を招くため行わない。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。