軟性下疳菌は疼痛を伴う不整形の性器潰瘍と有痛性化膿性鼠径リンパ節腫脹を起こすグラム陰性球桿菌である。国内ではまれだが、流行地域への渡航歴がある性器潰瘍では梅毒や性器ヘルペスとともに鑑別する。([病気予防管理センター][6])
Haemophilus ducreyi
細菌
小型で多形性のグラム陰性球桿菌で、潰瘍滲出液では魚群状、平行鎖状、指紋状に配列してみえることがある。
Haemophilus属に属するヒト病原菌で、皮膚・粘膜への接着と免疫回避に関わる複数の外膜蛋白をもつ。
非運動性、非芽胞形成性、通性嫌気性の栄養要求性桿菌である。発育にはX因子を必要とするがV因子は必須ではなく、特殊な培地と高湿度・二酸化炭素環境を要する。
ヒトが主要宿主であり、性器潰瘍をもつ感染者が感染源となる。無症候保菌の意義は明確ではない。
主に性行為で潰瘍または微細な粘膜損傷部へ菌が接種されることで感染する。病変から周囲皮膚への自己接種により複数潰瘍が生じることもある。
細菌表面の接着蛋白、DsrA、LspA蛋白、外膜蛋白が上皮への定着、血清抵抗性、貪食回避に関与する。細胞傷害性膨化毒素や溶血素なども組織障害に関与すると考えられる。
軟性下疳を起こし、感染部位に疼痛の強い丘疹から膿疱、浅い潰瘍が形成される。潰瘍底は膿性で出血しやすく、辺縁は不整で穿掘状となる。片側性または両側性の有痛性鼠径リンパ節腫脹が化膿し、横痃を形成することがある。性器潰瘍はHIVの感染・伝播リスクを高める。
性器潰瘍では梅毒、単純ヘルペス、性病性リンパ肉芽腫、外傷、Behçet病などを同時に評価する。確定診断には病変基部から採取した検体の培養または核酸検査が必要だが、培養感度は低く、検査を実施できる施設は限られる。典型的な有痛性潰瘍と化膿性リンパ節炎があり、梅毒・単純ヘルペス検査が陰性であれば臨床診断を検討する。
アジスロマイシン単回内服、セフトリアキソン単回筋注、シプロフロキサシン短期投与、エリスロマイシン投与などが選択肢となる。妊娠、授乳、年齢、地域の耐性状況を考慮して選ぶ。化膿した鼠径リンパ節は穿刺吸引または切開排膿を行うことがあり、治療後も潰瘍の治癒とリンパ節病変を再評価する。([病気予防管理センター][6])
コンドームの適切な使用、潰瘍が治癒するまでの性交回避、性交パートナーの診察と治療を行う。診断時にはHIV、梅毒、淋菌、クラミジアなど他の性感染症を検査する。症状出現前一定期間内に接触したパートナーは、症状がなくても評価と治療を検討する。
軟性下疳は有痛性で柔らかい性器潰瘍と有痛性化膿性鼠径リンパ節腫脹を特徴とする。梅毒の硬性下疳は一般に無痛性で硬く、性器ヘルペスは小水疱から多発性浅い潰瘍となる。Gram染色では魚群状配列が知られるが感度は低く、診断は臨床像と他疾患の除外が重要である。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。