淋菌はヒトの尿道、子宮頸管、直腸、咽頭、結膜に感染するグラム陰性双球菌で、淋菌性尿道炎、子宮頸管炎、骨盤内炎症性疾患を起こす。無症候感染と薬剤耐性が多く、核酸増幅検査による診断と適切な治療後のパートナー対応が重要である。([世界保健機関][1])
Neisseria gonorrhoeae
細菌
グラム陰性の腎臓形またはコーヒー豆形双球菌である。男性の急性淋菌性尿道炎では、多数の好中球内に貪食されたグラム陰性双球菌がみられる。
Neisseria属に属するヒト特異的病原菌である。線毛、Opa蛋白、外膜蛋白などの抗原性を高頻度に変化させるため、感染後も十分な防御免疫が成立しにくく、再感染が起こる。
非運動性、非芽胞形成性、無莢膜の好気性双球菌で、オキシダーゼ陽性、カタラーゼ陽性を示す。栄養要求性が高く乾燥や温度変化に弱い。糖分解ではグルコースを利用するが、髄膜炎菌と異なりマルトースを利用しない。
自然宿主はヒトのみである。感染者の尿道、子宮頸管、直腸、咽頭などの粘膜に存在し、特に女性、咽頭感染者、直腸感染者では無症候保菌が感染源となりやすい。
腟性交、肛門性交、口腔性交による粘膜接触で感染する。分娩時に感染した母体の産道から新生児へ伝播し、淋菌性結膜炎を起こすことがある。便座や浴槽など日常環境を介した感染は一般的ではない。
IV型線毛が粘膜上皮への初期付着に関与し、Opa蛋白が密着と細胞侵入を促進する。PorBは補体殺菌や食胞成熟を妨げ、IgAプロテアーゼは粘膜免疫を回避する。リポオリゴ糖は強い炎症反応を誘導する。線毛やOpa蛋白の相変異・抗原変異は持続感染と再感染に関与する。
男性では膿性尿道分泌物と排尿痛を伴う急性尿道炎、女性では子宮頸管炎、尿道炎を起こす。上行感染により子宮内膜炎、卵管炎、骨盤内炎症性疾患、不妊、異所性妊娠を生じうる。直腸炎、咽頭炎、精巣上体炎、前立腺炎、新生児結膜炎のほか、播種性淋菌感染症では発熱、移動性多関節痛、腱鞘炎、膿疱性皮疹、化膿性関節炎を認める。
感染が疑われる解剖学的部位ごとに初尿、尿道分泌物、子宮頸管・腟、咽頭、直腸の検体を採取し、核酸増幅検査を行う。男性の症候性尿道炎ではGram染色が迅速診断に有用だが、女性や咽頭・直腸検体では感度が不十分である。治療失敗、再感染疑い、薬剤耐性評価では培養と薬剤感受性検査が必要であり、淋菌は乾燥に弱いため迅速な輸送と選択培地での培養を行う。
国内の最新性感染症診療指針に従い、セフトリアキソンによる治療を基本とする。咽頭感染は治療が難しく耐性菌選択の場になりうるため、治療後検査の適応を検討する。クラミジア感染が除外できない場合は同時治療を考慮する。治療失敗が疑われる場合は性交歴と再曝露を確認し、培養・感受性検査を行って専門機関と連携する。フルオロキノロン系や経口セフェム系を感受性確認なしに選択しない。([日本性感染症学会][2])
コンドームを性交開始時から正しく使用し、症状がなくても曝露部位に応じた検査を受ける。患者本人だけでなく、一定期間内の性交パートナーにも検査と治療を勧め、双方の治療が完了するまで性交を避ける。HIV、梅毒、クラミジアなど他の性感染症も併せて評価する。実用化された淋菌ワクチンはない。([世界保健機関][1])
好中球内のグラム陰性双球菌、オキシダーゼ陽性、グルコースのみ分解という所見で髄膜炎菌と区別する。男性尿道炎は膿性分泌物が目立つが、女性の子宮頸管感染は無症候のことが多い。骨盤内炎症性疾患は不妊や異所性妊娠の原因となる。発熱、腱鞘炎、多関節痛、少数の膿疱性皮疹は播種性淋菌感染症を示唆する。診断は核酸増幅検査が中心だが、耐性評価には培養が必要である。
医学部生・医療系学生による編集チーム。CBT・国家試験対策・学習効率化に関する実体験と医学教育知見に基づいた情報を発信。
都内私立大学医学部卒業。現在は都内基幹病院にて初期研修中。学生時代はCBT・国試対策に注力し、学習法に関する情報発信にも関心を持つ。